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HOME / MOTORSPORTS / ADVAN FAN / Vol.53 News Index
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「WTCC(FIA世界ツーリングカー選手権)」。
フォーミュラカーの「F1」、ラリーの「WRC」と並ぶFIA世界選手権タイトルが賭けられた三つのレースカテゴリーのうちの一つであり、世界最高峰のツーリングカーレースとして世界中で人気が高まっているシリーズである。
このWTCCは発足二年目の2006年から横浜ゴムのADVANレーシングタイヤがワンメイク指定を受け、全てのチームに供給されエキサイティングなバトルを足元で支えている。
 
2005年7月、横浜ゴム・モータースポーツ部(当時はモータースポーツ開発部)の渡辺晋は翌年から横浜ゴムがWTCCのワンメイクタイヤサプライヤーになると決定したことを耳にする。

「横浜ゴムがWTCCのタイヤサプライヤーに決定するまでの経緯は承知していましたが、初めて正式に決まったことを聞いたのが2005年の7月でした。
その後、同年11月のマカオグランプリでは併催されたWTCCを翌年からのタイヤ供給も意識して見ましたが、まず印象としてはチームの体制などがパッと見ただけでも"格好いいな"と思いましたね。」

 
渡辺は1984年に入社、グランプリM3やM5などの"名作"を手がけ、さらにスタッドレスタイヤやRV用タイヤの開発を経て当時のモータースポーツ開発部に配属されたタイヤエンジニアである。

「タイヤ開発にあたって、着手する前は横浜ゴムとしてマカオグランプリ・ギアレースなどの経験もあるので『WTCCも全体的にはこんな感じで、あの部分をこれを使ってこうすれば・・・』というような目論見をつけて、従来の基本的な流れで充分に良いものを造り上げられると思っていました。
ところが実際にフタを開けてみると、そんな生易しいものではありませんでした。」


モータースポーツタイヤの経験も豊富な渡辺だからこそ、頭の中でおおよそのイメージを描いて臨んだWTCC用のタイヤ開発。しかし、経験豊富な渡辺でさえも思わぬ"産みの苦しみ"をこの後は味わうことになる。
 
 
「大きな問題として"耐久性"がありました。ご存じのようにWTCCは激しいバトルが繰りひろげられるのですが、その内容は実際に携わってみると想像以上のものでタイヤに対する負担も物凄いものがあるのです。
これまで経験してきたレースは、チームもドライバーも"タイヤの温存"を少なからず考慮してくれるものでした。しかしWTCCにそんな考え方は全くなくて、走られる限りを尽くしてスタートから攻めていくのです。例えるなら、ジムカーナの本番走行を延々繰り返すような感じとでも言いましょうか。
とにかくWTCCのようなレースは、私のモータースポーツタイヤエンジニアとしての経験で初めてのものです。」

 
横浜ゴムはWTCCタイヤ開発のための"Wプロジェクト"を編成し、渡辺がリーダーという立場になった。
そしてワンメイク供給二年目からはモータースポーツ部の小林勇一がプロジェクトメンバーに加わる。小林は1992年に入社し、金型やタイヤチェーンなどの設計開発に携わった後に当時のモータースポーツ開発部に配属されたタイヤエンジニア。
スーパー耐久やインテグラワンメイクなどのサーキットレースから、ラリーやダートトライアルといったグラベル系タイヤまで幅広く開発に携わってきた小林は、WTCCに初めて接したときのことを、こう振り返る。

「私も担当になってまず驚いたのはタイヤに対するシビアリティの高さについてです。ただでさえツーリングカーは車両重量があって、しかもWTCCが採用しているスーパー2000規定は車体の割にタイヤサイズが小さいのです。
こうした中で、走り方は一流のチームとドライバーが集まっているだけにハイレベルで、タイヤへの負荷が非常に高い。戦いの場も自分たちが経験したことの無いところも含め、色々なサーキットや市街地コースが存在しています。
そのような状況から、WTCCのタイヤに対する厳しさを痛感しましたね。」

 
渡辺、小林ともに、それまで経験したことが無いほどタイヤにシビアなレース「WTCC」。
ワンメイク供給に向けて開発を進めるにあたり、渡辺は大きなテーマを確立した。
 
「ひとつは根本的なことですが、どのタイヤメーカーにも負けないものを作ろうということを最大の開発テーマにしました。その指標となるものがベストラップの速さです。
そして具体的な性能面では、ハイレベルな走りをしてもタイヤが持つ最高のポテンシャルをレース中はずっと維持出来るようにすること。これはレースのオーガナイザーやチームからのリクエストでもありました。
もうひとつは駆動方式による性能を均等化すること。FF(前輪駆動)車がタイヤの面で不利になるようなことが無いようにしようということです。」

 
 
WTCCでは駆動方式の異なる車種同士が激しいバトルを展開する。ワンメイクタイヤを供給するメーカーには厳密な平等性も要求されるため、一方の駆動方式のみに有利になるようなタイヤ開発は絶対に許されない。
 
「駆動方式を超えた性能均衡化は難しいのです。色々とこれまでの経験や技術を活かして行き着いた解決策は、シビアリティの高いFF車のフロントタイヤについて、タレなくて耐久性のあるものを目指すことが必要だ、というところです。
このようなタイヤを造ると、賢明な皆さんは『ワンメイクタイヤなのだから、そのタイヤをFR(後輪駆動)車にも装着することになるとFR車が一層有利になるのでは?』と思われることでしょう。
実は、単純に言えばその通りなんですよ(笑)。
もちろんコースや状況によってFF車が有利なケースもあるわけで、一概にFR車だけが有利とは言えません。しかし駆動方式を問わない性能均衡化を図る上でひとつ行なったのは、荷重に対するタイヤパフォーマンスのダウンを緩やかなものにするということです。こうしたことは経験と技術の積み重ねで見いだし、実現できたことですね。」

 
レース、しかも世界最高峰という過酷な戦いを支えるタイヤ、そこに求められるものもやはり高いレベルである。難しい条件や状況、これを打ち破ることが出来るか否かは、まさに渡辺が語った経験値と技術力が大きな要素である。
 
一方で、小林はさらに開催コースに関する開発テーマを付け加えた。
 
「どんなコースでも通用するタイヤを造ろうということも大きな目標でした。ワンメイク供給する上で、どこでどんな風に走ってもタイヤのトラブルが起きないこと、というのはとても重要であり強く求められることです。
しかし、全く私たちが経験したことのないコースもありますし、一定以上のレーシングタイヤとしての性能を保ちながら、どんなコースでもトラブルを起こさないものを造るのはとても難しいことです。
WTCCではサーキットコースのみならず、市街地レースも開催されます。私たちにはマカオで長年の市街地レース経験があったのですが、例えば'07年に開催されたフランスのポーは、全く予想を超えた内容でした。
私たちのイメージでは市街地はサーキットより路面のミューが低く、エスケイプゾーンも無いので無謀な攻め方をしないものだと思っていました。つまりタイヤに対するシビアリティもサーキットよりは低いだろうと。
ところが行ってみると、マカオではガードレールによってコース外とされている"歩道"が、ポーの場合はガードレールの内側に残されるかたちでコースの一部のようになっていたのです。そのためドライバーもサーキットコースでいう縁石のように遠慮なく乗り上げて攻めるので、タイヤにとっては本当に辛い状況になりました。逆に言えばWTCCのレベルが如何に高いのかも改めて実感させられました。
私にとっては'07年でもっとも『こんなはずでは無かった・・・』という一戦でしたね(笑)。」

 
決して時間的な余裕も多くない中、世界最高峰のツーリングカーレース「WTCC」用のレーシングタイヤは産声を挙げた。
そして2006年4月2日、イタリアの名門サーキット・モンツァで行なわれた2006年開幕戦で実戦デビュー。ともに激戦の末、第1レースはBMWのアンディ・プリオール選手、第2レースはアルファロメオのアウグスト・ファルファス選手が優勝。
期せずして開幕戦ではFR車とFF車がともに優勝を飾ることとなり、重要なテーマとして取り組んだ性能均衡化がしっかり図られたことを実証した。そして、もちろんタイヤトラブルも皆無という結果であったのは言うまでもないだろう。
世界選手権にワンメイクタイヤデビューを果たしたADVANは高い性能を遺憾なく発揮し、オーガナイザーやチーム、ドライバーから厚い信頼を得ることになったのである。
 


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