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2011年のパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライムで、前年に自身が記録したコースレコードの13分17秒57を、実に1分近く上回る12分20秒084を叩き出してレコード更新をなし遂げた、塙郁夫選手。電気自動車でのパイクス挑戦は3年目、足元にはエコタイヤ『BluEarth』を装着しての記録更新となった。
前のページでは電気自動車とエコタイヤはとても相性が良いと語った塙選手。電気自動車には、独特のドライビングテクニックがあるとのことで、その秘密を教えていただいた。

「このインタビューの前半で、2009年の参戦では色々なトラブルに苦しみながらも、電気自動車を走らせるコツのようなものを会得したと話しましたよね。実はトラブルのほとんどを、ドライバーが走らせ方を変えるだけのことでフォロー出来るんですよ。その為には、今までのガソリンエンジンで培ってきたドライバーとしてのノウハウを、一度全部リセットして忘れる必要がありますが」


では具体的に、その走り方というのは、どのようなものなのだろうか。

「パイクスのコーナーには90度近いところもあって、その上ガードレールなんか無いんですよ。だから、普通のレース感覚であればインカットしていくじゃないですか。ところが、アウト側からフルブレーキングでインのクリップにつくというのは、急減速や急ハンドルだから、効率重視の電気自動車では一番やってはいけないことなんですよ。
そこで2009年に会得した走り方というのは、ステアリングの角度を一定に保って、アクセルも一定にして、無荷重移動でスーッと曲がっていくことなんです。従来型のストレートを全開加速で行って、フロントにハードブレーキで荷重をかけながらステアリングを切り込んで、という走り方は、ドライバーとしては精神的に安心出来ますが、電気自動車では御法度なんです。
だから、ストレートは『フーッ』と加速して、そこに必要最小限のモータートルクを与え続ける。この時にアクセルワークを使っちゃダメなんです。4つのタイヤの限界ギリギリで、路面をなめるようにして『ダラーッ』とコーナーに入って、インにもつかないでアウト側を曲がっていくんです」


なんとも従来のモータースポーツからは想像出来ない走り方でパイクスを攻めたという塙選手。しかし、この走り方には大きなリスクも伴っているという。

「この走り方、一歩間違えると木っ端みじんになっちゃうんですよ。なにしろガードレールなんか無いところでやっているんですから。だから、外から見ているイメージとは正反対で、ドライバーの仕事としては凄くチャレンジングなんです。
そして、見ている人はゴール後にタイムを聞いてみんなビックリするわけです。タイヤひとつ鳴らさないで走って速いんだから(笑)。僕はトップスピードで160km/h台しか出していませんが、全く同じタイムを従来のようにインを攻めていく走らせ方でガソリン車で出そうとしたら大変でしょうね。似たようなタイムのガソリン車は、トップスピードで190km/h台を出していましたからね」


こうして、新記録を樹立した塙選手。そのチャレンジの模様、そして車載映像を交えて戦いの内容をご紹介する動画を、YouTubeの横浜ゴム公式チャンネルでは配信している。ここに動画リンクも展開するので、ぜひご覧いただきたい。
 
トップスピードは低いが、タイムは速い。つまりコーナーリングスピードが圧倒的に高いということの証明である。
さらに電気自動車を速く走らせるためには、効率を徹底的に追求しなければならないという。

「電気自動車の場合、ガソリン車のようにドライバーが限界まで車にムチ打って走ることがベストラップにつながるわけではないんです。モーターとバッテリーの組み合わせというのは、同じペースで走るにしても効率の良い領域と悪い領域があって、そこを見抜いてやる必要があるんです。
電気自動車はご存じの通り、大きな排気音やエンジン音は無いし、振動も小さい。ですが、僕の場合は経験値として効率の良い領域で走らせる方法を、身体で習得してきましたね。
まずは細かくデータを収集して解析する。そして、アクセルを踏む量やタイミング、ステアリングを切る速さや角度、ブレーキの踏み方、とにかく全てをモニタリングして組み合わせていくんです。すると効率の良いところでは横Gをうまく縦Gに変換できて加速が13%もアップするとか、色々と見えてくるところがあるんですよ。こういうことは、ガソリン車では全く気づかなかった部分ですね」


効率化。つまり、如何に無駄を省いていくか、ということが電気自動車のドライビングでは鍵となる部分であるようだ。

「そうですね、だってガソリン車というのはエネルギー効率が3割くらいしか無いのに対して、電気自動車は元々のエネルギー効率が8割くらいで無駄が無いんですよ。だから、ドライビングで少しでも無駄なことをすると、それが大きく足を引っ張っちゃうんです。
ここが電気自動車でスポーツ走行をして最大の発見なのですが、電気自動車でタイムを出そうと思ったら、ガソリン車の10倍くらい繊細な運転をして、ドライバーが神経を使う必要があるんです。
だから、電気自動車では常に次のコーナーで車がどういう挙動になるのかを見越しながら、急のつく操作をしないようにスムーズな走らせ方を実践しています。急のつく操作というのは無駄の結果ですからね。全ての操作をスムーズに、ゆっくりやると、常にスムーズに転がってくれるタイヤというのが一番良いんですよ。いわゆるハイグリップタイヤというのは、ある程度のスリップアングルをかけて、発熱させて、路面に引っかける感じで走り、曲がり、止まるものです。それは電気自動車では御法度の走り方で、あくまでもタイヤもスムーズに転がる領域で走らせて、優れたパフォーマンスを引き出してやる。だから『BluEarth』が一番なんです」
 
新時代の電気自動車モータースポーツ。そこには、従来とはまた違う奥深さやチャレンジングな面があるようだ。
ところで塙選手が生み出した『HER-02』は独特なスタイリングも大きな特徴のレーシングマシン。続いてはこのマシンデザインについて、そのコンセプトをお聞きした。

「僕がこの車をデザインする時に掲げたのは、『今のレースファンが格好良いというデザインはいらない』ということ。逆に、子供たちが見て『格好良い』とか、『大人になったら、こんな車に乗れるのかな』というような、夢や憧れを持ってもらえる形にしたかったんです。そもそも、純粋に性能だけを追っていくと、今あるレーシングカーのエンジンをモーターに換えたものが一番なんですよ。でも、それでは未来が無いように思えるんですよね。
だから、この車をレーシングデザインのプロが見たら、『素人が、こんな車を作って』と言うかもしれませんね。だって、見た目は派手かもしれませんが、全部が飾りで、空力性能なんか何も考えていないですから(笑)」


意外にも、デザイン面では空力は一切考慮していないという。では、このデザインコンセプトは、どういうものなのだろうか?

「そうですね、例えばこのリアウィング。性能を突き詰めたら、GTウイングみたいなものが良いに決まっているんです。
でも、このウイングは『鈴虫が鳴いている時の、羽根のかたちにしよう』と思って作りました。そう、これって実は鈴虫なんですよ。だから全体的にどことなく昆虫っぽい形の車でしょ?(笑)
フロント周りは、マシン製作当時の監督だった人が『俺はジェット戦闘機が好きなんだよ。格好いいよね』と言っていたから、ジェット戦闘機で見られた翼と胴体が一体化した"ブレンデット・ウイング"をモチーフにしました。ちなみにヘッドライトはマシンガンの発射口をイメージして。
もう、完全にそういう"ノリ"で作ったんですよ。だって、折角の電気自動車でのチャレンジなんだから、新しさや楽しさが無いとダメでしょう。今、我々が出せるタイムであれば、空力なんか突き詰めなくても大丈夫だから、と周りに言いながら作り上げました」
 
30年を超えるレースキャリアを誇る塙選手。いま、新たに電気自動車でのチャレンジを精力的に展開しているが、ここで塙選手ご自身の歩みについてお聞きしてみよう。

「1960年に生まれて、18歳で免許を取ったらすぐにフォーミュラ・バギーの全日本の参戦を開始しました。実家は農家で、中学生の頃には自分の家の畑で耕運機なんかを動かしていたし、エンジンチューニングもやっていましたね。さらにその前はバイクのカブ、これのエンジンのポート研磨をやっている小学生でした(笑)。
そもそもモータースポーツを始めたのは、単純に車や機械が好きだったから。農繁期に親から『お前は男なんだから、耕運機を動かせ』と言われて畑で乗るようになったら、もう面白くて仕方ないじゃないですか。それで、動かしてみて面白いとなったら、次は当然のようにバラしてみたくなるじゃないですか(笑)」


サーキットレースを始めるにはお金がかかりそうだということで、感覚的にも身近なオフロードレースの道へ進んだという塙選手。数々の栄光を手中におさめてきた輝かしいキャリア、その礎となったのが幼少期からの体験にあるという。

「田んぼで育っているから、"土を見る眼"があるんですよ。都会育ちの子とは違って、土を見た瞬間に『ここは表面はヌルヌルだけれど、下は硬いな』とか、『表層のところは硬いけれど、その下は柔らかいな』とか。だから、スタートの時にわざとにホイールスピンをさせて上の柔らかい土を飛ばして、顔を出した下の硬い路面を使ってトラクションを稼ごうとか、そんな判断も一瞬でついちゃうんです。
サーキットで成功をしてるレーサーには、子供の頃からレーシングカートで英才教育を受けてきた人が増えていますよね。僕なんかも、子供の頃から田んぼで英才教育されてきたんですよ。オフロードレースで成功するなら、まずは田んぼからですね(笑)」


田んぼで英才教育を受けた機械好き、車好きの少年は、今や電気自動車を駆って次世代モータースポーツの先駆者となりつつある。最後に2012年の挑戦について塙選手は、次のように熱く語った。

「2012年のパイクスは、路面が完全なターマック(舗装路)になる予定です。
今の段階では、実はまだモーター温度が上昇する問題は完全に解決出来ていないんです。車そのもののポテンシャルとしては11分台に入れるだけのものがあると思っていますので、もう一度モーターのクーリングを見直して、足回りも100%ターマック用にセッティングを替えて、11分台を狙っていきますよ。
ただ、それに並行して、総合優勝を狙えるような次の車も、同時に開発を始めていくつもりです」
まだまだ始まったばかりとも言える、塙選手の電気自動車によるチャレンジ。市販車の世界でも電気自動車が注目を集めているが、技術革新の場としてモータースポーツは大きな役割を担っていくことになるだろう。自動車というものは本質的に"走らせることの楽しさ"を持っている。それは化石燃料が動力源でも、電気が動力源でも変わらない部分だ。
21世紀になり、新たな進化のステージを迎えた自動車。その進化の歴史に、塙選手のチャレンジも大きな1ページとして刻まれていくことになるだろう。
[UPDATE : 2.Dec.2011]
         
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